フランス菓子Maison Weniko
「ル・スフレ」のこと
西麻布にある「ル・スフレ」というスフレ専門店は、私が一番最初に修業を始めた店で、もう30年続いている。その店が今年の5月末で閉店することになった。
赤い布張りの椅子や、銅製のお菓子型、シェフの古くからの友人が描いたという店内を飾る壁画。
毎朝スタッフで一時間以上かけて隅々まで掃除をして磨きこまれた店は、全く古さを感じさせない。
誰でも受け入れるというより、遊びを知っている大人の社交場という言葉がぴったりのレストランだ。
私はそこで3年間修業をして、様々な事を学んだ。もしかしたら今はもう、パワハラとか、セクハラとか、ブラック企業とか、そんな風に言われてしまうのかもしれない。
朝8時過ぎに店に入り、早くても夜11時頃、終電に間に合わせるために走って店から出るまでの間、休憩時間は30分ほどしかなかった。休みが一ヶ月以上なかったこともある。料理が同じタイミングで出せなかったということで殴られ、一度の失敗も許してもらえず、「女はどんなに頑張っても一山いくらにしかならない」といわれたこともある。
そこで働いている間仕事が楽しいと思ったことはただの一度もない。毎日のように、泣いて泣いて、辞めたい辞めたい、そればかりを繰り返し考えていた。
それでも続けたのは、シェフのお菓子が美味しかったからだ。当時はまだ知名度がほとんどなかった20年前からマカロンを作り、様々なショコラやコンフィチュール、プレオールやシュクセなど今でも珍しい焼菓子を流行を追い求めることなく作っていた。その場でできたてのデザートも提供して、イタリア製のアイスクリームマシーンで、パルフェグラッセを作っていた。
そしてとても気持ちの広いシェフだった。突然店に来た見知らぬ外国人の仕事を探すために、知り合いの店にあちこち電話をしている姿を何度も見かけた。「自分もフランスで職探しに苦労した時にずいぶんフランス人が助けてくれた」といっていた。私が辞めたいと相談した時には「お前には夢があるんだろう」と励ましてくれた。
時折の雑談でよく色々なレストランの話をしていた。私もその輪に入りたくて、休みのほとんどはレストランに食事を行くことにした。だからその時東京にあったフランス料理屋にはほとんど行っている。それ以外にも月に一度は、店のマダムが勉強のためにとスタッフ全員をレストランに招待してくれた。最初の頃は北島亭やマキシムドパリなどに連れて行ってもらっても、何を注文していいか分からず、先輩と全く同じものを頼んでいた。
一度辞めて、フランスに行く前に一年間ほどフランス語の勉強をする合間にアルバイトで戻った。
その時に「よく頑張ったな」と初めて言ってもらえた。「女はだめだ」といわれた時、悔しいというよりも、だったら認めてもらえるように頑張ろうと思ったあの日々が報われた。
先日電話で話した時は、本店を閉めることはもう5年ほど前から考えていて、それは次のことをするためだと話してくれた。自由が丘と、渋谷の東急に入っている支店は残すので、スフレの味が消えてなくなるわけではない。シェフは全くパソコンを使わないので、今ネット上ではスフレの本店が閉店するという事で騒がれていますよ、と伝えると「だから最近やけに忙しいんだな」と、笑っていた。
それでも、あの、美しい店がなくなってしまうことは本当だ。
メゾンベニコにも「若い頃に良く行ったわ」と遊びを知っているようなマダムやムッシューが、私がスフレで働いていたという事を聞いて懐かしそうに昔のスフレの話をしてくださる。私も誇らしい気持ちになる。
写真はお菓子好きだった母が持っていた昭和54年発行の「洋菓子の研究」という古い雑誌だ。偶然見つけたスフレの永井シェフがフランスのコンクールで賞を取っと時の記事だ。私もいつか永井シェフを超えられる日がくるのだろうか。
最後になる前に、スフレの本店で出来たてのスフレを1人でも多くの方に召し上がって頂きたいです。
レストラン・サロンドテ ル・スフレ
港区西麻布3-13-10 セピアビル2階 03-5474-0909 月曜定休
12時から22時(ラストオーダー) 日曜・祝日は18時ラストオーダー
赤い布張りの椅子や、銅製のお菓子型、シェフの古くからの友人が描いたという店内を飾る壁画。
毎朝スタッフで一時間以上かけて隅々まで掃除をして磨きこまれた店は、全く古さを感じさせない。
誰でも受け入れるというより、遊びを知っている大人の社交場という言葉がぴったりのレストランだ。
私はそこで3年間修業をして、様々な事を学んだ。もしかしたら今はもう、パワハラとか、セクハラとか、ブラック企業とか、そんな風に言われてしまうのかもしれない。
朝8時過ぎに店に入り、早くても夜11時頃、終電に間に合わせるために走って店から出るまでの間、休憩時間は30分ほどしかなかった。休みが一ヶ月以上なかったこともある。料理が同じタイミングで出せなかったということで殴られ、一度の失敗も許してもらえず、「女はどんなに頑張っても一山いくらにしかならない」といわれたこともある。
そこで働いている間仕事が楽しいと思ったことはただの一度もない。毎日のように、泣いて泣いて、辞めたい辞めたい、そればかりを繰り返し考えていた。
それでも続けたのは、シェフのお菓子が美味しかったからだ。当時はまだ知名度がほとんどなかった20年前からマカロンを作り、様々なショコラやコンフィチュール、プレオールやシュクセなど今でも珍しい焼菓子を流行を追い求めることなく作っていた。その場でできたてのデザートも提供して、イタリア製のアイスクリームマシーンで、パルフェグラッセを作っていた。
そしてとても気持ちの広いシェフだった。突然店に来た見知らぬ外国人の仕事を探すために、知り合いの店にあちこち電話をしている姿を何度も見かけた。「自分もフランスで職探しに苦労した時にずいぶんフランス人が助けてくれた」といっていた。私が辞めたいと相談した時には「お前には夢があるんだろう」と励ましてくれた。
時折の雑談でよく色々なレストランの話をしていた。私もその輪に入りたくて、休みのほとんどはレストランに食事を行くことにした。だからその時東京にあったフランス料理屋にはほとんど行っている。それ以外にも月に一度は、店のマダムが勉強のためにとスタッフ全員をレストランに招待してくれた。最初の頃は北島亭やマキシムドパリなどに連れて行ってもらっても、何を注文していいか分からず、先輩と全く同じものを頼んでいた。
一度辞めて、フランスに行く前に一年間ほどフランス語の勉強をする合間にアルバイトで戻った。
その時に「よく頑張ったな」と初めて言ってもらえた。「女はだめだ」といわれた時、悔しいというよりも、だったら認めてもらえるように頑張ろうと思ったあの日々が報われた。
先日電話で話した時は、本店を閉めることはもう5年ほど前から考えていて、それは次のことをするためだと話してくれた。自由が丘と、渋谷の東急に入っている支店は残すので、スフレの味が消えてなくなるわけではない。シェフは全くパソコンを使わないので、今ネット上ではスフレの本店が閉店するという事で騒がれていますよ、と伝えると「だから最近やけに忙しいんだな」と、笑っていた。
それでも、あの、美しい店がなくなってしまうことは本当だ。
メゾンベニコにも「若い頃に良く行ったわ」と遊びを知っているようなマダムやムッシューが、私がスフレで働いていたという事を聞いて懐かしそうに昔のスフレの話をしてくださる。私も誇らしい気持ちになる。
写真はお菓子好きだった母が持っていた昭和54年発行の「洋菓子の研究」という古い雑誌だ。偶然見つけたスフレの永井シェフがフランスのコンクールで賞を取っと時の記事だ。私もいつか永井シェフを超えられる日がくるのだろうか。
最後になる前に、スフレの本店で出来たてのスフレを1人でも多くの方に召し上がって頂きたいです。
レストラン・サロンドテ ル・スフレ
港区西麻布3-13-10 セピアビル2階 03-5474-0909 月曜定休
12時から22時(ラストオーダー) 日曜・祝日は18時ラストオーダー
by weniko
| 2016-04-03 17:41
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